今回は、GAMESSのOutputファイルを実際に確認しながら、どのような熱力学的諸量が出力されているかを見てみましょう。
結果はどこに出力されるの?
振動数計算をおこなったOutputファイルをテキストエディッタで開き「THERMOCHEMISTRY」でキーワード検索すると見つかります(最後の行付近です)。Firefly(PC GAMESS)もGAMESS(US)も見方は同じです。ここでは以前計算したアセトフェノンの出力例を見てみましょう。それでは、各行ごとに一部抜粋しながら説明していきます。
最初の行で一気圧, 温度298.15Kで計算を行ったことがわかります。GAMESSでは計算に温度を指定する事はできますが、圧力を指定することはできません(一気圧のみ)。また、今回は溶媒効果を指定していないので真空中での値になります。溶媒や温度の指定方法については今後説明します。
次に、「THE HARMONIC ZERO POINT ENERGY IS」にゼロ点補正エネルギーが出力されています(ゼロポイントエネルギー補正とも呼ばれます)。ゼロ点エネルギーとは、絶対零度においても原子が物質波としての不確定性を有するために、静止せずに運動することで分子が持つエネルギーのことです。構造最適化で得られる全エネルギーには、これは含まれていません。ゼロ点エネルギーを全エネルギーに含めることを「ゼロ点エネルギー補正」と言います。値は4つありますが単位換算しているだけです。
最後の行にE:内部エネルギー, H:エンタルピー, G:ギブス自由エネルギー, CV:定積モル比熱, CP:定圧モル比熱, S:エントロピーの各補正値が出力されています。各行のELEC.~VIB.は上から電子, 並進, 回転, 振動の内訳で、実際の計算ではTOTALの値を補正値として使用します。単位はkJ/molとkcal/molで出力されます。
ちなみに、計算した化合物の全エネルギーは、まず「ELECTRONIC ENERGY」でキーワード検索して、その下の行にある「TOTAL ENERGY」の値がそれになります。
全エネルギー(TOTAL ENERGY)は、全電子エネルギー(ELECTRONIC ENERGY)+原子核間反発エネルギー(NUCLEAR ENERGY)で表されます。「TOTAL ENERGY」で検索すると沢山ヒットするので全電子エネルギーで検索して見つけるとよいでしょう。ちなみに、単位はHartreeです(1Hartree = 627.51kcal/mol)。実際は、この全エネルギーに先程の各補正値を加えた値を計算に使用します。
もっと見やすい方法はないの?
以前紹介したMaSKを使用すればSummary形式で分かり易く結果を抽出することができます。
OutputファイルをMaSKで開き、ツールバーのResults >Extended Summaryを選択すると以下のようなサブウインドウが開き、計算した化合物の全エネルギー(Total Energy)と各エネルギー補正値がkcal/mol単位で見やすく表示されます。
ここで表示される値はコピーできますので、そのまま各種計算に利用できます。MacでもWine環境を使えば、この機能は使えるのでぜひ活用してください。
計算方法をもう一度確認しよう!!
計算方法は「IRスペクトルを計算してみよう」で既に述べましたが、もう一度おさらいです。実際にGAMESSで計算する際は、構造最適化計算や遷移状態計算などに追加する形で$STATPTグループにHSSEND=.TRUE.を入れるか、安定化構造を求めた後に$CONTRLグループでRUNTYP=HESSIANと指定します。振動解析もそうですが熱力学的諸量も安定化構造でなければ意味がありませんので注意してください。
おわりに
今回は、GAMESSの振動数計算で出力される熱力学的諸量の見方について説明しました。詳しい内容を知りたい場合は、直接出力ファイルを確認する必要がありますが、実用的によく使う値としてはMaSKのSummary形式で表示される部分で十分です。ぜひこの便利な機能を活用しましょう。今後、実際にこれらの値をつかった計算の説明を行っていきます。
この記事で使用したOutputファイルを以下に置いておきます。
http://pc-chem-basics.blog.jp/AcetophenonIR(out).out
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コメント
コメント一覧 (3)
さて、プロトンが関与する反応の活性化エネルギーを計算するため、プロトンの熱力学諸量を
知りたいのですが計算できません。
(本サイトでお手本としてあった塩化物イオンや臭化物イオンと同様の操作を行いました)
これは原理的に計算が不可能なんでしょうか?
素人質問で恐縮ではございますが、ご教授いただければ幸いです。
お役に立てていればうれしく存じます(*´ω`*)。
プロトンが関与する反応の活性化エネルギーも原理的に計算可能です。
計算例もたくさん存在します。
うまくいかない場合は、類似の反応を扱った論文の分子座標や計算レベルを参照してみるとヒントになるかもしれません。
また、以下のサイト(ChemTube3D)で類似の反応があれば役に立つかもしれません。
https://www.chemtube3d.com/category/organic-reactions/
お礼が遅くなり申し訳ありません。
そうなんですね、何か類似の反応を扱った文献を探してみることにします。
プロトン単独での熱力学諸量が計算できなかったので、不可能なのかと思ってしまいました。
ご丁寧にありがとうございました。