MOPAC (Molecular Orbital Package) は、半経験的量子力学計算(semi-empirical)を行うためのソフトウェアです。計算に実験的パラメーターを使用することで、計算量を大幅に削減することができます。
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MOPC6や7であれば、パブリックドメインなので誰でも利用可能です。遷移状態の候補構造を計算するのに便利な機能があるので、GAMESS以外に別途導入しておくと重宝します。今回は、MOPACの概要と入手方法について紹介します。

MOPACとは?

MOPACとは、スチュワート(J.J.P.Stewart)博士らにより開発されてきた、世界的に有名な半経験的分子計算法のソフトウエアです。通常、SCF計算で行われる電子状態計算では多くの積分計算を伴います。MOPACでは、計算に関与する原子の最外殻電子・原子価電子(価電子)だけを対象にします。具体的には、2原子積分の微分重なりを無視し(NDDO法)、量子化学計算で必要な電子間や核間反発エネルギー等を、原子や典型的分子のイオン化ポテンシャル、電子親和力などの実験値を積分計算の代わりにパラメーターとして用いることで計算量を大幅に減らしています。電子相関の効果は、用いるパラメーターを通して自動的に取り込まれる一方で、計算結果はすべてパラメーターに依存するので注意が必要です。
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主に有機系分子の構造と物性計算での評価・精度の向上を目標に、数千原子程度(タンパク質の一部)の計算でも、実用的な計算時間でその分子特性や反応性を評価することが可能です。計算に関する正確さ(Accuracy)はスチューワート博士の論文やMOPACのHP(http://openmopac.net)に公開されているので、興味のある方は参照してみてください。アップデートも頻繁に行われており、MOPAC2007で搭載されたPM6法はB3LYP/6-31G*に劣らない結果が得られるとの報告もあります


MOPACの入手方法

教育機関に属していれば、最新版のMOPAC2016が無償で入手できます。しかし、教育機関用でのメールの送信やパスワード認証によるセットアップなど結構面倒です。そこでおすすめしたいのが、MOPAC6や7です。パブリックドメインになっているので誰でもダウンロードして直ぐに利用できます。MOPAC6(MOPAC Ver.6)は1989年に発表された古いプログラムですが、今でも使われているPM3法やAM1法といったハミルトニアンを利用できます。GMESSで計算する際の補助的役割で用いる場合はMOPAC6や7で十分です
MOPAC6と7どちらを使えばいいかは一概には言えません。MOPAC6のアップグレード版がMOPAC7なのですが、計算対象によっては6では計算が上手くいくのに7ではダメだったり、逆の場合もあったりします。両方導入しておいて片方でどうしても上手くいかない場合に、もう片方で試してみるといった使い方をおすすめします。

それでは、実際の入手方法について紹介します。幾つかのソフトを挙げますが、ここでは、Winmostarをおすすめします。とりあえずは、WinmostarでMOPAC6, MOPAC7を使ってみてから、必要に応じて他のソフトの導入を検討してみてください。

1) Winmostar
(株)クロスアビリティが販売するMOPACとGUIを組み合わせたソフトです。MOPAC6, MOPAC7がプログラムに含まれています。無償版, トライアル版(3ヶ月), 商用版とがあります。
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Macでも、Wine環境で一応動作確認ができました(Winmostar Ver. 7.016/EasyWine Ver.20161211使用時)。無償版登録用のフォームにメールアドレスを入力すると、メールの返信でダウンロードリンクとライセンスコードが届きます。インストール後の初回起動時にライセンスコードを入力すると13ヶ月間使用できます。
現在のVer. 7.016では分子数の制限なくMOPAC6, 7での計算ができます。MOPACのみの使用であれば、無償版でOKですが、商用版ではGAMESSの実行もできたりします。商用版が気になる方はHPを参照してください。
ダウンロードはこちらから
https://winmostar.com/jp/index.php

2) WinMopac7.21
ロシアのRoman Shchepin博士らが公開している、MOPACとGUIを組み合わせたリーソフトです。MOPAC7がプログラムに含まれています。このソフトで計算を実行する場合、MOPACで通常出力されるARCファイル(結果の要約ファイル)は出力されません。
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分子モデリングの機能はついていないので、別途Avogadroなどを使って分子座標を準備する必要があります。入力ファイルの構造と出力ファイル(結果)の構造確認だけは3Dで表示されます。必要最低限の機能だけを揃えたシンプルなソフトウエアといった感じです。Windowsユーザーのみならず、MacユーザーもWine環境で使用できます。
ダウンロードはこちらから
http://winmopac.narod.ru/english.html

ロシア語で書かれているので一応、ダウンロードのリンク先を下図に記載しておきます。インストールは、基本的にインストーラーの指示に従えば問題ないと思います。
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実際に使用した様子は、以下の記事を参考にしてください。 
【関連記事】
遷移状態を「SADDLE法」で探索してみよう

3) MolWorks
ビヨンドコンピューティング(株)が開発したMOPACとGUIを組み合わせたソフトです。MOPAC6がプログラムに含まれています。現在は残念ながらダウンロードできなくなっています。
興味がある方は(株)ベストシステムズの販売ページに問合せてみてください。私が2013年頃にダウンロードした当時は、無償で利用できました。Mac版とWindow版とがあります。
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分子モデリングから入力ファイルの作成、結果の可視化まで一連の操作が可能です。Winmostarを導入していれば、現状無理をして入手する必要はないでしょう。

3) TS Search
(株)TSテクノロジーが配布しているMOPACとGUIを組み合わせたソフトです。MOPAC6, MOPAC7がプログラムに含まれています。遷移状態探索に特化したソフトで、初心者には直感的に操作できるのでおすすめします。
ただし、Java(jre1.4以上)が必要なのでJavaを嫌う方や、古いJavaソフト自体がウイルス対策ソフトに検知される方や、古いJavaアプリでCPUが暴走してしまう場合などは導入を避けたほうが良いでしょう。Winmostarでも同様の操作はでるので、後々導入を検討してみてもよいでしょう。
以下のURLで使い方の詳細が参照できます。
http://rdesign.chem.yamaguchi-u.ac.jp/doc/indexhowto.html
ダウンロードはこちらから
http://web.tstcl.jp/support/

4) WebMO
Webブラウザ上で実行可能なウェブインタフェースアプリケーションです。このブログでも、以前紹介したので詳細は省略します。MOPAC6, 7ではなくMOPAC2012が利用可能ですのでハミルトニアンにPM6やPM7も使用できます。デモ版では1分間のCPU時間に制限されますが、計算が高速なので大抵の分子はデモ版で実行できます
WebMOデモ版のMOPACを利用した遷移状態の探索方法については今後紹介していきます。特にミニマムエネルギーパス計算の入力ファイルが簡単に作れるのでおすすめです。
使用する際は、こちらのページにアクセスしてください
https://www.webmo.net/index.html
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5) MOPAC6, MOPAC7単体
ダウンロードページにアクセスして、赤枠で囲った「Executable」をクリックしてダウンロードするとコンパイル済みのMOPACが直ちに利用できます。
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MOPAC6であれば同一フォルダに入力用のファイル(.dat)を用意し、アプリケーションをダブルクリックするだけで計算が実行されます。MOPAC7の場合、一度アプリケーションをダブルクリックすると「FOR005」というファイルが作成されます。これをテキストエディタで開いて入力ファイルの内容を記述し、アプリケーションをダブルクリックすれば計算が実行されます。
Windowsユーザーのみならず、MacユーザーもWine環境で使用できます。単体でもこのような使い方ができますが、特に理由がなければ上記のGUIを通して利用した方が効率的です

6) GUI単体
MOPAC最新版(2016など)を利用できるのであればGUIは、MoCalc2012が一番の選択肢でしょう(※。その他にも、Facioという国産のフリーソフトがありますが、使い方が少々複雑で扱いづらいので初心者にはあまりおすすめしません。有償であればADF modeling suiteChemBio3Dなどが選択肢ですが、どちらも非常に高価です。

※) brhr-iwaoさんがMoCalc2012で使用できるMOPAC7(MOPAC7SP)を公開しています。 MoCalc2012の環境設定からディレクトリを指定するだけで簡単に導入できます。詳細はGitHubリポジトリを参照してみてください。
https://github.com/brhr-iwao/MOPAC7SP/releases

おわりに

今回は、MOPACの入手方法について紹介しました。現在では非経験的量子力学計算(ab initio)が主流であり、若い世代ではMP3やAM1て何?MOPAC?という方が案外多かったりして最近驚きました。GAMESSにもPM3やAM1といった半経験的量子力学計算の方法が実装されています。GAMESSはsemi-empirical 計算にMOPACのアルゴリズムを採用しているのですが、MOPACとくらべて結構いい加減な幾何構造を与えたりします。また、GAMESSでは利用できない計算方法などもあるので、別途MOPACを導入しておくことをおすすめします。
具体的なMOPACの計算方法は次回紹介します。

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