今回はMOPAC6, 7基本的な使用方法について紹介します。GAMESSに比べて入力ファイルの内容はシンプルなので、簡単に覚えられると思います。
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あくまでGAMESSの補助的使用を目的にしているので、ここではMOPACについて最低限知っておきたいことについて述べます。この内容を一読すれば概ねMOPACによる計算の実行は行えるようになると思います。
 

計算前に知っておきたいこと

1) AM1とPM3を使う際の注意点
前回、MOPAC6と7では計算方法(ハミルトニアン)にAM1(Austin Model 1)とPM3(parametric method 3)とが使用できることを述べました。それぞれ、実験的パラメーターを用いているため各方法に特徴があり、計算に適応できる元素も異なります。下図の周期表に示すようにMOPAC6,7で使用されているPM3では記載されている元素全てに適応できますが、AM1では赤色で着色した元素のみで一部の金属についてはカバーしていないので注意が必要です。
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また、PM3とAM1でNa, K, Rbを計算に使用する場合はスパークルとして代用されます。このスパークルとは、例えばナトリュウム原子では+1の電荷をもった「固まり」として扱われることを意味します。スパークルでは原子軌道が考慮されず、他原子との間に電子のやり取りがありません(電子的反発がない)。また、ナトリュウム原子は常に+1の電荷を保とうとするため、全体の電荷が0である分子を計算すると、ナトリウム原子以外の部分が-1の電荷を帯びるといった問題があります。スパークル代用や適用外の元素を含む系では、はじめから非経験的分子軌道法(ab initio)密度汎関数法(DFT)の使用をおすすめします。

2) AM1とPM3どちらを使えばいいの?
どちらのハミルトニアンがよいかという問題は一概に決定できません。一般的に、PM3は反応機構、弱い相互作用(水素結合など)に有利であり、AM1は反応性(フロンティア電子密度)、ヘテロ環の構造、電子的特徴を知ることに有利であると言われています。パラメーターの決定方法や、各ハミルトニアンの正確さ(Accuracy)に興味がある方は、原著論文を参照してみてください。
AM1: http://openmopac.net/manual/references.html#am1
PM3: http://openmopac.net/manual/references.html#pm3-1

例えばPM3で計算を実行してみて上手く行かなかったら、AM1でリトライしてみるといった方法で、両方のハミルトニアンをトライアンドエラーで使い分けていくのも手です。基本的には、後で非経験的分子軌道法や密度汎関数法の使用を想定しているので、ここでは定量性に関してあまり細かくこだわる必要はありません。

入力ファイルの内容を知ろう

1) 入力ファイルの構成について
入力ファイルは、最初の行に使用するハミルトニアン(AM1, PM3など)と計算に必要なキーワードを指定します。 2行目と3行目はスペースです(個人的なメモを記入してもOKです)。4行目から、分子座標を入力します。分子座標の最後に空白行を加えれば、入力ファイルの完成です。テキストエディッタで作成する場合は、拡張子を.datにすればOKです。下図は、クロロメタンをAM1法で構造最適化(キーワード:EF)する際の入力ファイル例です。
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2) 分子座標について
MOPACでは分子座標に、内部座標系(別名:Z-matrix)とCartesian座標系(別名:直交座標系, XYZ座標系, デカルト座標)などが使用できます。MOPACの内部座標形式はGAMESSでも利用できるので是非覚えておきましょう。
(※例えば、GMAESSでは$CONTRLグループにCOORD=ZMTMPCと指定すればOKです)。
先程のクロロメタンの入力ファイルを例に見てみましょう。
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内部座標は、原子ごとに1行で座標指定を行います。左から原子記号、次に参照原子からの結合距離、Flagを挟んで参照原子との結合角、最後にFlagを挟んで参照原子との二面角になります。
例えば、塩素原子のNAは1なので、1番の炭素原子との結合距離が1.8Åであることが分子座標から読み取れます。
(NA:その行の原子とNAで指定した原子との結合距離を指定, NB:その行の原子とNAの原子とNBで指定した原子との結合角度指定, NC:その行の原子とNA, NBで決まる面とNA, NB, NCで決まる二面角を指定)

Flagの値は、「1」で指定した内部座標の値を最適化する、「0」で指定した内部座標の値を最適化しない(固定する)、「-1」で反応座標に指定します。このFlagの部分は、ある特定の置換基のみの構造最適化したい場合や、遷移状態の候補構造を探す際に常用するので覚えておいてください。
 
3) キーワードについて
MOPAC6, 7で使用するキーワードは共通しています。キーワードは細かいのをあわせると200近くあるので常用するキーワードのみを紹介します。この10種類程度を覚えておけば概ね問題ないと思います

【 計算目的 】
ハミルトニアンと組み合わせて計算目的を指定します。例えば、「PM3 EF」と記述すれば「PM3法で構造最適化計算」を実行します。常用するのは、以下の5つです。

1) EF: 構造最適化
2) FORCE: 振動解析
3) TS: 遷移状態探索
4) SADDLE: 与えられた2つの構造から遷移状態の候補構造を計算する
5) IRC:極限反応座標計算 (IRC=1, IRC=-1)

【 オプション 】
上記のハミルトニアンと計算目的に対して、さらに追加情報を記述します。例えば「PM3 EF PRECISE GEO-OK」であれば「PM3法の構造最適化で収束判定を100倍厳しくし、なおかつ原子が異常接近を無視して計算」という命令を実行します。常用するのは、以下の5つです。

1) PRECISE:収束判定を100倍厳しくする
2) GEO-OK:原子が異常に接近した場合のチェックを無視する
3) LARGE=n:IRC計算と組み合わせてIRC距離毎の計算回数を指定
※ex. PM3 IRC=1 LARGE=50 (この場合、IRC距離50回おきに計算と指定しています)
4) RECALC=n: 最適化サイクルごとに二次微分を計算させる (系のポテンシャル曲面が浅い場合等に使用します)
5) XYZ: カルテシアン座標系で計算 (ex.内部座標で計算エラーが出る場合に追加すると、上手くいくことがあります)

その他に、電子状態の情報を追加したい場合は以下のキーワードを追加します。

CHARGE=n: 電荷を指定 (ex.カチオンなら+1, アニオンなら-1 ※系全体の総電荷を指定します)
OPEN(n, m):開殻系の軌道数を指定, nには開殻軌道内に存在する電子数, mには開殻軌道の数を指定
※MOPACはラジカルなど電子数が奇数の分子を計算する場合、デフォルトでOPEN(1,1) (=開殻軌道数1, 電子数1)と同じ計算が行なわれます。つまり、OPEN(1,1)以外の電子状態を計算する場合にキーワードの追加が必要です。
UHF:開殻系の非制限ハートリー・フォック法を指定 (デフォルトRHF)
TRIPLETスピン多重度に三重項を指定 (二重項ではDOUBLET等のように多重度を英数字で記述)

さらに詳しく知りたい場合は、MOPACのマニュアル(外部リンク)を参照してみてください。
MOPAC6 Full Manual
http://pharm.ph.sojo-u.ac.jp/~kumayaku/KH/mopac_man.html
MOPAC7 Full Manual
http://www.cmbi.ru.nl/~borkent/mopman/mopac.html

計算を実行してみよう

前回紹介した、Winmosterであれば画面に計算したい分子を描画して、画面にキーワードを入力し、のボタンをクリックし計算を実行するだけです。計算が終了すると計算結果がテキストファイルで表示されると同時に、画面に計算結果の構造が反映されます。
出力ファイルの最後に「MOPAC DONE」と記述があれば、MOPACは正常終了したことになります。エラーが発生した場合は、最後の行付近にエラーの内容が記載されるので必ずチェックするようにしましょう。 
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「MOP6W70実行」でMOPAC6, 「MOP7W70実行」でMOPAC7を選択します。内部座標系とCartesian座標系の切替えは、青丸で囲った部分で行なえます。分子モデリングの操作が独特なので、難しい場合はMolviewなど他のソフトで作成したものを.mol形式などで一旦保存して読み込ませると良いでしょう。ちなみに、ツールバーのチュートリアルやマニュアルから基本的な使い方は参照できます。

WinMopac7.21で実行させる場合は、AvogadroなどでMOPAC形式の内部座標を準備し、「Initial matrix」タブに入力ファイルの内容を記載しRun MOPACボタンをクリックします。 
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計算中はサブウインドウで計算経過が表示されます。計算が終了すると、「Full results」タブで出力ファイル(.out)の内容を確認できます。 
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また、「Briefing results」タブでは生成熱(HOF)が確認できます。「Final matrix」タブで計算後の構造の内部座標が表示されます。ツールバーの赤枠で囲ったシクロプロパンのボタンをクリックすると3Dで分子モデルが表示できます。これは同様に、「Initial matrix」タブをアクティブにした状態でクリックすれば入力ファイルで使用した3Dの分子モデルが表示されます 。
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おわりに

今回はMOPAC6, 7について、AM1とPM3の計算の限界と入力ファイルの作成方法、及び計算の実行方法について述べました。出力ファイルの内容は、GUIを通して確認した方が効率的ですがエラーの内容はテキストエディッタで直接開いて確認する必要があります。MOPACのエラーの内容は、大半が分子座標に関するものなので初期座標を見直せば概ね解消できることが多いです。あとは、キーワードのスペルミスなど基本的なミスであればエラーメッセージで直ぐにわかります。どうしてもわからない場合は、上記のFull Manuaを参照してみてください。
今後は、キーワード「SADDLE」の使い方とミニマムエネルギー計算の方法について紹介していきます。

この記事で使用した計算ファイルを以下に置いておきます。
http://pc-chem-basics.blog.jp/CH3Cl%20PM3%20EF(dat).dat
http://pc-chem-basics.blog.jp/CH3Cl%20PM3%20EF(out).out

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