MEP法は、反応部位の結合距離や角度などを一方向に変化させながら、繰返し計算をおこない遷移状態を探索する方法です。入力ファイルの作成が少々煩雑で、初心者には面倒に感じるかもしれませんが実際に手を動かして「体験」しながら慣れていきましょう。この記事ではMOPACを使った計算方法について紹介します(GAMESSでの実行方法はこちら)。
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MEP法とは?

反応座標の手法は、Minimum Energy Path計算や、Reaction Coordinate, Grid 計算と呼ばれます。この方法は、求めたい遷移状態の反応を特徴づけるような内部座標を反応座標として選び、何点かの反応座標値を指定します。次に、各点での反応座標以外の自由度に関しては構造最適化を行ったエネルギー計算を実行します。そこで得られたエネルギープロファイルの極大点を、遷移状態近傍の構造であると仮定し、遷移状態の初期構造として利用します。
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この手法は、真の反応座標が、反応座標として取り上げている内部座標に局在している場合にはうまくいくことが期待できます。GAMESSでもMEP法を実行できますが、入力ファイルの作成が結構面倒です。GAMESSでの実行方法については、この記事を参照してみてください。

具体的な計算方法は?

1) まずは計算したい系を構造最適化し、内部座標形式で分子座標を表示させます。その際、参照分子は反応座標に関係する原子に関連付けてある必要があります。ここでは塩化メチルの臭化物イオンとのSN2反応をモデルにします。つまり、塩化メチルの背面から臭化物イオンが接近し、塩化物イオンが脱離する反応座標を計算します。初期座標でCとBrがあまり離れすぎていたり、直線上から外れていたりすると別の構造に収束する可能性があるので初期構造は慎重に作成しましょう。

2) 反応座標に対応するFlag-1(反応座標に指定)に変更し、分子座標の最後に一行空けて何点かの反応座標値を記述します(ここではBr-の結合距離Flagを-1にし、反応座標値をCとBr間の距離Åに指定しています)。詳細は動画か、記事最後の入力ファイルをダウンロードして確認してください。

3) あとは、ハミルトニアン(AM1やPM3など)とキーワードに「EF」(=構造最適化)を指定し計算を実行すれば各反応座標値に対するエネルギープロファイルが得られます(ここでは、CHARGE=-1を忘れないようにしましょう)。

4) Winmostarを使う場合は、ツールバーの半経験QM >MOPAC >インポート >Animation(arc)から計算で得られた出力ファイル(拡張子.arc)を読み込みこむと、エネルギーvs.反応座標値のグラフが表示されます。エネルギーの極大点を、遷移状態近傍の構造であると仮定して遷移状態の初期構造として利用します。
Winmostarを使用して、実際に計算した様子を動画に纏めたので参考にしてください。



こちらは、WebMOを使用した方法です。初期座標を作成するのは、WebMOの方が便利かもしれません。Winmostarで上手く入力ファイルを作成できない方はこちらを試してみてください。



おわりに

今回は、反応座標の手法を用いて座標値に対するエネルギープロファイルから、遷移状態の候補構造を探索する方法を紹介しました。MOPACでこの手法が理解できれば、GAMESSでも応用がききます。というのもGAMESSでこの計算の入力ファイルを作成する際に、MOPAC内部座標形式($CONTRL COORD=ZMTMPC)を使うと非常にシンプルに記述できるからです。GMESSでの入力ファイルの作成や実行方法については今後詳しく紹介します。

この記事で使用した計算ファイルを以下に置いておきます。
http://pc-chem-basics.blog.jp/MEP%20AM1.zip

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