前回、構造最適化計算で理論と基底関数にHF/3-21Gを使用しました。「いったい"HF/3-21G" とは何なんなのか?」と言うのが今回のお話です。ここでは、HF法(ハートリー・ホック法)と基底関数(3-21G)について簡単に説明します。まずは、ここでザックリと概要をつかんで、今後の詳しい説明へ進んでください。
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” 何 " が解れば計算結果が得られるのか?

量子化学計算では、電子状態(分子中の電子のエネルギー分布)を計算しているとも言えます。この電子状態が分かれば、その分子の性質(安定構造、物性、反応性etc.)を知ることができます。化学にあまり馴染みのない人でも『シュレーディンガー方程式』は聞いたことがあるかもしれません。
シュレーディンガー方程式は、『Hψ=Eψ』で表されます。 
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ここで、H(ハミルトニアン)は、分子構造や電子などの情報を含んでおり、いわばインプットファイルの情報になります。対してアウトプットファイルとして出力されるのが、E(エネルギー)とΨ(プサイ(電子状態))の情報と言えます。
さらにHは運動エネルギーと位置エネルギーの和で表されますので、すごく簡単に言うと、この方程式は「電子のもつ全エネルギーは運動エネルギーと位置(ポテンシャル)エネルギーの合計で表せる」ということもできます。

ここまで聞くと、簡単に解が求まりそうな気がするのですがそう単純ではありません。そこで立ちはだかるのが『多体問題』です。多体問題とは3つ以上の物体間の相互作用は解析的に解くことができないという問題です。
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電子状態を知るには、ある電子と原子核との相互作用の他に「違う電子との相互作用」も知る必要があるのに、この「多体問題」のせいでこれらを正確に知ることができないのです。
 

多体問題を解く苦肉の策「ハートリー・フォック法(HF法)」

しかし、他の電子との相互作用を 「平均化させたものとの相互作用」として近似することで、この問題を近似的に解くことが可能です。これを一電子近似と言います。
しかし、この電子同士の相互作用をできるだけ正確に求めないと信頼できる値は求まりません。そこで登場するのが『ハートリー・フォック法(HF法)』です。又は「自己無撞着場法(self consistent filed)」の英語の頭文字から「SCF法」とも呼ばれてます。
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HF/3-21GのHF(理論)がこれに該当します。HF法では、まず一電子近似で分子軌道(分子中の電子が見出される可能性が高い領域)を求めます。これは先程述べたように近似値ですので、実際のエネルギー値より大きくなるはずです。そこから、エネルギーが下がるように徐々に分子軌道を変化させ、もうこれ以上エネルギーが下がらないというところが実際の値に等しいと考えて計算結果を出力させます。Firefly(PC GAMESS)の場合は、一つ前の計算より1.0E-05 hartree/bohr 以上エネルギーの低下がなければ計算を終了します。ちなみに、この値は任意で変えられるので、より厳しくすることも可能です。 

基底関数とは?(3-21G)

理論(計算手法)とは他に、「電子がどのような大きさや形で、どの軌道にいるのか」をある程度指定する必要があります。これを数式で表現したものが『基底関数』です。
例えば、分子の中にある電子分布は周囲の原子や電子の影響で分極したり、結合を形成したり孤立した原子とは大きく異なるのでそれぞれのケースに適した基底関数を指定する必要があります。
また、基底関数は計算時間も十分考慮して選択する必要があります。何故かと言うと、非常に高度な基底関数を選べば正確な結果が得られるのですが、その代わりに膨大な時間を必要とするからです。
つまり、「より早く、正確な解を得られる基底関数」を選ぶということが非常に重要になってきます。
ちなみに、「3-21G」とは基底関数の中でもスプリットバレンス基底関数系 (原子殻二倍基底関数系(Split Valence Double Zeta Basis Set))と呼ばれる部類の基底関数です。3-21Gは内殻軌道を3個のGauss型関数、原子価軌道を内側と外側とで2個と1個のGauss型関数に分けて表現していると言う意味です。
「Gauss型関数」 なんて少し難しい言葉が出てきましたが、これを説明するにはもう少しツッコんだ説明が必要なので、今後、適時説明していきます。
 

おわりに

今回は、ハートリー・ホック法の説明と基底関数についてちょっとだけ触れてみました。HF法がシュレディンガー方程式の解である電子状態を近似的に解く分子軌道法であること、基底関数は軌道の大きさや広がり方を時間・精度を考慮して選択する必要があることなどを述べました。
これで、理論/基底関数の重要性がザックリとつかめたと思います。さて、次回は水分子の構造最適化計算で使用したもう一つの理論/基底『B3LYP/6-31G(d)』についてのお話です。

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