最近は3D PDFを使用した化学論文を見ることも珍しくありません。3D PDFは、静的な2次元の分子モデルではなく、インタラクティブに3次元(3D)モデルをPDF上で動作させる技術です。最新のAdobe Acrobatソフトがインストールされたコンピュータであれば、誰でも利用できます。
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計算した分子モデルをいかに相手に分かり易く伝えるかは計算化学の分野でも非常に重要です。今回は、簡単に3D PDFドキュメントを作成する方法について紹介します。

3D PDFとは?

3D情報を含んだPDFファイルを 「3D PDF」と呼びます。閲覧、操作には、無償Adobe Acrobat ReaderさえあればOKです。つまり、追加の3Dレンダリングソフトウェアは必要ありません。実際に3D PDFを用いた化学論文が下図になります(DOI: 10.1021/jp901678g)。
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複雑な分子特性を視覚化するためには、インタラクティブに3Dモデルを動作させることが有効です。これにより、平面ではわかりにくい立体的に混み合った箇所も容易に理解できます。また自由に拡大縮小、回転が行えるので相手にイメージを伝えやすくなります

3D PDFを作成するには?

実際に細かい設定(位置の調整や背景など)をするには、3Dオブジェクトの編集機能を備えたAdobe Acrobat Pro DCPDF-XChange Editorが必要です。



単に3D PDFを作成するだけであれば無償ツールでも可能なので、まずは最も簡単に3D PDFを作成できる方法について紹介します。

1) Avogadroで3Dモデルを作成又は読み込んだら、File >Export >VRMLを選択してselectボタンで保存先とファイル名(拡張子.wrl)を指定し、RenderボタンでVRMLファイルを保存します。
VRMLファイルは「Virtual Reality Modeling Language」の略称です。ここでは、説明のため水分子を用います。
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2)後は、「ONLINE CAD CONVERTER」でVRMLファイルをPDFに変換するだけです。無料トライアルの場合、最大ファイルサイズは100KBです。さらに大きいファイルや気に入った場合は有料オプションを使用しても良いでしょう。
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サイトにアクセスしたら、先程作成したVRML(.wrl)ファイルInputファイルに選択して、OutputをPDFに選択します。メールアドレスを入力し、「CONVERT FILE」をクリックするとすと変換したファイルがメールで送られてきます。

3) ここでは、QuickMailというフリーメールサービスを利用しています。変換が終了すると、Zipファイルが添付されたメールが届きます。変換するファイルによっては時間がかかるので、気長に待ちましょう。
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4) Zipファイルをダウンロードしたら、解凍します。Zipファイルの中に、先程変換したPDFがあるので開きます。3Dコンテンツを表示させるには、Adobe Acrobat Reader(バージョン8以上、無償版)が必要です。
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はじめてPDFを開く場合は「3Dコンテンツは無効になっています。この文書を信頼できる場合は、この機能を有効にしてください。」というメッセージが表示されるので、オプションから「信頼する」を選択した後に、PDFファイルをクリックすると3Dコンテンツが表示されます。表示されたら、実際に3Dコンテンツが動かせるか確認してみてください。

これで無事完成です。作成した3D PDFは以下のURLからダウンロードできます。
http://pc-chem-basics.blog.jp/H2O(3DPDF).pdf

操作は簡単です。マウスのホイール、または右クリックでドラックし拡大縮小、対象を移動させたい場合、Windowsでは「Ctrl」, Macでは「Command」キーを押した状態で左クリックしドラックさせます。また、左クリックでドラックすれば
自由回転が行えます。

5) ここまでは、すべて無償で利用できました。もし有償の編集機能を備えたAdobe AcrobatやPDF-XChange Editorをお持ちの場合はさらに以下のような編集も可能です。例えば、背景色を白色に変更して他のPDFに貼り付けた様子が下図になります。
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方法は以下の通りです。ここでは、Adobe Acrobat X Pro Ver10.1.16を使用しています。他の編集機能を備えたAdobeソフト(バージョン8以上)でも基本的に操作は同様です。ツールバーの表示 >ツール >コンテンツをアクティブにし、サイドバーのマルチメディア >3Dを選択します。
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そうすることで、3Dコンテンツの右クリックメニューから編集 >コピーを選択できるようになります。あとは、他のPDFファイルに貼り付けるだけです。背景色や3Dコンテンツの詳細設定は、通常の右クリックメニューのプロパティーから設定できます。


その他に方法はないの?

有償のAdobe Acrobat Pro DC やPDF-XChange Editorを持っている場合は、ONLINE CAD CONVERTERを経由せずに直接3Dオブジェクトを挿入する方が簡単です。バージョンによっては、Avogadroで作成したVRML(.wrl)ファイルを直接挿入することができます。
対応してない場合は、MeshLabというフリーソフトを利用してVRMLをU3D(Universal 3D)に変換する必要があります。
※) MeshLabは使用する環境によって上手く動作しない場合があります。また、U3Dに変換した際に色彩情報が失われることがあります。

例えば、Adobe Acrobat Pro  への3Dコンテンツの挿入方法は、まずツールバーの表示 >ツール >コンテンツをアクティブにし、サイドバーのマルチメディア >3Dを選択します。次にPDF上で挿入する位置を選択すると、ファイルを挿入するための3Dコンテンツのファイル参照画面が表示されます。あとは、U3D(拡張子.U3D)を挿入するだけです

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また、「Bentley View V8i」というフリーソフトを使えば直接3DコンテンツをPDFに変換できます。しかし、オブジェクトを編集することはできません。さらに利用登録も必要であり、インストールに複数のソフトを導入するため非常に時間がかかるのでおすすめしません

その他のには、JSmolを使った方法がJmol wikiに紹介されています。これは、JSmolに読み込んだ分子モデルをIDTF形式で保存した後に、変換ソフト(Universal 3D Sample Software)を使用してU3D形式に保存した後に、PDF-XChange Editorのフリー版でU3Dを導入して3D PDFを作成する方法です。この方法は、当ブログの電子書籍版で図を使って詳しく解説しています。

この方法であれば、ONLINE CAD CONVERTERのように容量制限やメールのレスポンスに悩まされる必要もありません。

残念ながら2020年の7月7日で従来のAdobe Acrobat DC(永続版)はサポートが終了し、サブスクリプション版への移行がはじまります。サブスクリプション化で割高感が否めないので、これを機に安価で同等の機能を有するPDF-XChange Editorを検討してみるのもよいと思います。

おわりに

今回は、簡単に3D PDFを作成する方法について紹介しました。単にPDF上に3Dコンテンツを作成する場合は、説明したとおり無料で行うこともできます。さらに、論文など文章中に3Dコンテンツを挿入するには有償のAdobe Acrobat Proまたは、PDF-XChange Editorを使えば可能です。相手が3Dの分子描画ソフトを持っていなかったり、使いこなせない場合などにPDFを開くだけで3Dモデルを共有できるメリットは非常に大きいと思います。

この記事で使用したファイルを以下に置いておきます。
http://pc-chem-basics.blog.jp/H2O(3DPDF).pdf
http://pc-chem-basics.blog.jp/H2O(VRML).wrl

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