分子モデルの視覚化ツールを持っていない相手と、インタラクティブ(操作可能)な分子モデルを共有したい場合一体どうすればいいのでしょうか?相手に視覚化ツールのインストールや操作を一から説明するのは面倒です。また、OSやPC環境によって使用できなかった場合は最悪です。
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そんな時に役に立つのがJSmolを使った方法です。この方法を使えば、URLを知らせるだけで誰でも簡単にインタラクティブな分子モデルを共有できます。しかも全て無料で行えます。

3D分子モデルを共有する最良の方法は?

前回、「PDF上で動く3Dモデルを作成する方法」について紹介しました。しかし、この方法ではせっかく量子化学計算で得られた情報(結合角や結合長, 分子軌道など)を表示することができません。かといって、GAMESSなどで計算した出力ファイルを相手にただ送っても、出力ファイルの見方や視覚化の手段がわからないのでは意味がありません。

そこで役に立つ方法がJSmol Wikiに紹介されています。方法は、クラウドサービスにアップロードされたファイルをWebブラウザで動作するJSmolで読み込むという非常にシンプルなものです。以下の画像が実際に作成した3D分子モデルを動作させた様子です。

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このURLから実際にアクセスできます。(分子モデルは、以前「フロンティア軌道で反応を予測しよう ~その②~」の記事で計算したFirefly(PC GAMESS)の出力ファイル(.out)を使用しています。)

つまり、共有するのに必要なのはURLのみなので別途視覚化ツールを導入することなく、電子メールやTwitter、ブログなどで分子モデルを表示したい人へ簡単にコピーして共有することができます。もちろん、量子化学計算で得られた様々な情報を視覚化することも可能です。

共有するURLの作成方法は?

ここではFirefly構造最適化計算したChloro Ethaneの分子モデルを例にURLの作成方法を説明します。

1) まずは、クラウドサービスにChloro Ethaneの出力ファイル(.out)をアップロードします。ここでは、Dropboxを使ってみましょう。アカウントをお持ちでない場合はトップページにアクセスして「アカウントを作成」からアカウントを作成してください。名前とメールアドレスを登録すればすぐに使用できます。GoogleアカウントでもOKです。
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ログインできたら、赤枠①の「ファイルをアップロード」のボタンをクリックしてファイルをアップロードします。アップロードが完了したら赤枠②共有ボタンをクリックして開く画面から、"リンクを作成" >"リンクをコピー"の順でクリックすると共有用のURLが表示されます。
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ここで得られた、共有URLは以下の通りです。
https://www.dropbox.com/s/fvwet9udf5nvnu9/NH3%2BCH3Br%28TS%29.out?dl=0

2) 次に、先程得られたDropboxの共有URLをJSmolで読み込めるように編集します。
編集したURLは以下の通りです。
https://chemapps.stolaf.edu/jmol/jmol.php?source=https://dl.dropboxusercontent.com/s/yq86hyesze1ofdr/ChloroEthane.out

つまり、DropBoxの共有URL①の青色の部分と、JSmolのスクリプト用URL②を組合せるだけです。
① https://www.dropbox.com/s/yq86hyesze1ofdr/ChloroEthane.out?dl=0
https://chemapps.stolaf.edu/jmol/jmol.php?source=https://dl.dropboxusercontent.com/s/

実際に、作成したURLにアクセスして色々と動作を試してみてください。右クリックメニューから距離の計測や分子軌道の表示などができます。
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あまりにファイルサイズが大きいと読み込みに時間がかかるので、単に構造だけを共有したい場合は計算の出力ファイルから座標だけを抜き出して.xyz形式などにすると良いでしょう。JSmolが対応している形式であれば、Gaussian等の他の量子化学計算パッケージで作成したOutputファイルでももちろん同様の操作が行なえます。

分子軌道を表示させた状態で共有するには?

JSmolをはじめて使う場合は、右クリックメニューから目的の操作を探すのが難しいかもしれません。もし、相手とフロンティア軌道(LUMO)に関する知見を共有したい場合、目的の軌道を表示させた状態のURLを作成したほうが親切です。その場合は、JSmolのスクリプトによるカスタム表示を利用します。

1) まず右クリックメニューの"モデル"から構造最適化後の構造を選択します(赤枠①)。JSmolではじめに表示されるのは通常、計算前の構造であることに注意が必要です。
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次に"面"(surface) >分子軌道から18番目の軌道であるLUMOを選択します。後は好みですが、ここでは表示方法をワイヤーフレームに変更しました(スタイル >モデルの表示方法 >ワイヤーフレーム)。

2) 表示方法を変更すると下図のように表示されます。右クリックメニューから「状態とスクリプトを保存する」を選択して、JSmol Scriptファイル(拡張子.spt)形式で保存します。
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3) 保存したJSmol ScriptファイルをDropboxにアップロードする場合は、先程説明したURLの変換方法に習って共有用のURLを作成します。Scriptファイルには、作成の元となったURLを指すLOADコマンドが含まれている必要があります。つまり、スクリプトファイルを作成する前のOutputファイルをクラウド上から削除したり、移動したりするとエラーが表示されるので注意が必要です。作成したURLは以下の通りです。
https://chemapps.stolaf.edu/jmol/jmol.php?source=https://dl.dropboxusercontent.com/s/6ybjik21nl26jrg/ChloroEthane%28LUMO%29.spt

こうすることで、送りたい相手にJSmolの詳細な操作方法を指示することなく、分子軌道などのアニメーションをアクティブにした状態で共有できます。

おわりに

今回は情報を共有したい相手と簡単に、操作可能な3D分子モデルを共有できる方法を紹介しました。この方法を使えば、必要なのはWebブラウザとネット環境のみですので、相手のPC環境にほとんど依存することなく情報を共有できます。

特に複雑な分子の場合、平面ではわかりにくい立体的な箇所も自由に拡大縮小、回転が行えるので相手にイメージを伝えやすくなります。JSmol Wikiに紹介されているこの方法、大変便利ですので是非、活用してみてください。

この記事で使用した計算ファイルを以下に置いておきます。
http://pc-chem-basics.blog.jp/ChloroEthane.out
http://pc-chem-basics.blog.jp/ChloroEthane(LUMO).spt

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