Psi4は、Pythonモジュールとして使用するか、実行ファイルとして使用するかを選択できます。これまでの連載では、Psi4をPythonモジュールとして使用してきました。このモードをPsiAPIと呼びます。一方、Psi4用の固有言語を使い、入力ファイルを記述し実行ファイルに送信するモードをPsithonと呼びます。
tut-5ac
Pythonを使うのに抵抗がある方にとって、Psithonモードの利用はよい選択といえるでしょう。また、PsiAPIユーザーも、すべての計算を安定して行えるわけではないのでPsithonモードの利用方法を覚えておくと便利です。

Psi4用のInputジェネレータを利用する

Psithonモードの固有言語をすべて理解するのは大変です。そこで、サードパーティ製のInputジェネレータを利用するのが得策でしょう。Psi4用のInputジェネレータとしては、AvogadroMoCalc2012WebMOなどが候補に挙げられます。

試しに、Avogadroを利用して入力ファイルを作成してみましょう。以下に、水分子のHF/STO-3Gレベルの構造最適化計算用の入力ファイル例を示します。

set basis  STO-3G
molecule {
0 1
   O       -0.27949       -0.50673        0.00000
   H        0.69051       -0.50673        0.00000
   H       -0.60282       -1.05798       -0.72971
}
optimize('scf')

Psi4用のInputジェネレータにアクセスするには、ツールバーの「Exteensions>Psi4...」()を選択します。あとは、計算方法などを指定して、[Generate]ボタン()をクリックするだけです。
psiabo_001
これにより、ボタンをクリックするだけでPsithonモードの固有言語を知らなくても入力ファイルが簡単に作成できます。

Avogadroは選択できるオプションが少ないので、不満な場合はMoCalc2012WebMOなどを試してみるとよいでしょう。

Psi4の入力ファイルを実行ファイルで使用するには?

コマンドプロンプトで以下のように実行すれば、入力ファイルを実行ファイルに送信して計算を行えます。

psi4 FileName.in

つまり、「psi4」の後に入力ファイルのファイルパスを記述して実行します。ここでは、ホームディレクトリ直下の「FileName.in」という名前の入力ファイルを指定しています。

例えば、Cドライブの「psi4」というフォルダに「FileName.in」という名前の入力ファイルが存在する場合は、「C:\psi4\FileName.in」というように指定します。

psi4 C:\psi4\FileName.in

コマンドプロンプトで実行するのに抵抗がある方は、本ブログで公開しているPsi4runを試してみてください。 GUIから入力ファイルを実行でき、バッチ処理にも対応しています。
psi4_mv
Psi4run - Batch job processor - | ダウンロード

視覚化のために必要なコード

Psi4の計算結果を視覚化するためには、いくつかの方法があります。例えば、上記の水分子の構造最適化計算の入力ファイルに視覚化のオプションを追加するには、「optimize('scf')」を以下のように変更します。

optimize, wfn = optimize('scf', return_wfn=True)
fchk(wfn,'output.fchk')

これにより、Avogadroで計算結果を描画できるようにfchkファイル形式で保存することができます。「output.fchk」の部分は保存するfchkファイルのファイルパスを入力すれば、目的の場所にfchkファイルを生成することができます。

例えば、Cドライブの「psi4」というフォルダにfchkファイルを生成する場合は、以下のように指定します。

optimize, wfn = optimize('scf', return_wfn=True)
fchk(wfn, r'C:\psi4\output.fchk')

ファイルパス直前の「r」(raw文字列)を付けることを忘れないようにしましょう。

なお、Psi4runを使用する場合は、ファイル名のみでinputファイルと同じディレクトリにfchkファイルが出力されるようにしています。

生成したfchkファイルをAvogadroで開いた様子を以下に示します。
psi4avo_002
また、本記事で使用した入出力ファイルを以下に置いておきます。

http://pc-chem-basics.blog.jp/Psithon_ex-H2O.zip

残念ながら、既存のInputジェネレータには、こういった細かなオプションが標準で用意されていません。もし、標準の機能以外で実現したい機能がある場合は、公式ページのマニュアルを参照してみるとよいでしょう。 

Psi4は、PsithonモードよりPsiAPIモードのユーザーが多いように思います。また、ネイティブのWindows環境にPsi4が対応したのが最近であることも、本格的なInputジェネレータが存在しない理由なのかもしれません。「こういったInputジェネレータが欲しい!!」というご要望が多ければ、作成して本ブログで公開したいと思うので、気軽にコメントください(*´ω`*)

おわりに

Psithonモードの公式のチュートリアルは、以下のURLにアクセスすると確認できます。

https://psicode.org/psi4manual/master/tutorial.html

Psithonの固有言語で使用されるキーワードをすべて一から直接入力するのは、効率的とは言えません。Inputジェネレータをうまく利用して効率化しましょう。ここで紹介しきれていないPsi4のすべての機能について知りたい場合は、以下のページを参照してみてください。

https://psicode.org/psi4manual/master/index.html

PythonやPsi4の固有言語を学習するメリットは大きいです。しかし、目的に対してその手段を習得するまでのハードルが高すぎるように思います。Inputジェネレータを使えば、ボタンをクリックするだけでPythonやPsi4の固有言語を知らなくても入力ファイルが簡単に作成できるので、初心者はまずこの方法から試してみることをおすすめします。まずは、小さくはじめて、実務で必要になってから本格的に学習をはじめても遅くはありません。

近年では、プログラミングを必要としない『ノーコード』に対する興味や関心が高まっています。今後は、様々なソフトウェアでプログラミングを行うかどうかをユーザーに任せる流れが主流になってくると思います。

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