アイソデスミック反応(Isodesmic Reaction)は、計算化学の論文によく出てくるキーワードの一つです。この反応は、熱化学計算をする際に都合が良いのでよく用いられます。今回は、アイソデスミック反応の基本的な考え方とそれを利用した反応熱の計算方法について紹介します。
de00

アイソデスミック反応とは?

アイソデスミック反応とは、それぞれの結合タイプ(単結合や二重結合など)の総数が反応系と生成系で等しい化学反応の総称です。日本語ではイソデスミック反応と書かれていることもありますが「Isodesmic」の読み方の問題です。

何故、この反応が計算化学の分野で好まれるかと言うと、結合の総数とタイプが保たれているため、反応前後のエネルギー的な誤差が相殺されるからです。つまり、低いレベルの理論/基底関数を用いた場合でも、比較的正確に反応エネルギーを予測することができます。
de02
具体的な反応例として、アセトアルデヒドとエタンが反応しアセトンとメタンとが生成する反応を考えてみましょう。この反応では、1つのCO二重結合、2つのCC単結合と10のCH単結合が反応の前後で保たれているのがわかります。

ちなみに、結合の総数とタイプの他に混成軌道(C(sp3-sp3)結合など)も保たれる場合は、反応物と生成物の類似性がさらに増すことで、より正確な推定値を与えることができます。例えば、ブタンとプロパンから二分子のプロパンが生成する反応がそうです。このような反応は、ホモデスモチック反応(Homodesmotic Reaction)と呼ばれます。

⊿H(反応熱)を計算してみよう!!

反応エンタルピー(⊿H)は生成物と反応物の生成熱の差に相当します。つまり⊿Hを予測するためには、反応系と生成系のエネルギーを求めその差を比較すればよいのです。それでは早速、上記のアセトアルデヒドからアセトンを生成するアイソデスミック反応を例に、GAMESSを用いて⊿H(反応熱)の予測計算をしてみましょう。

1) はじめに、反応式に出てきた4つの化合物について構造最適化振動解析をHF/6-31G(d)レベルで計算してみましょう。ここではFirefly(PC GAMESS)を用いて計算しますが、GAMESS(US)でも入力ファイルの内容は同じです。使用するキーワードは、既に説明していますので、わからない方は過去の記事を参照してください。
de03
2) 構造最適化によって最安定化構造が得られ、さらに振動解析によってその熱力学的諸量が求まったはずです。それぞれの化合物の全エネルギー(TOTAL ENERGY)にゼロ点補正エネルギーを加え、ゼロ点エネルギー補正を行いましょう。

3) 次に、アセトンとメタンのエネルギー値の合計(生成系)から、アセトアルデヒドとエタンのエネルギー値の合計(反応系)を引いた値を求めましょう。この値が、⊿H(0K)になります。結果を纏めたのが以下の表になります。
de01
計算で得られた-9.21kcal/molは、実験値-9.6kcal/mol(0K)と比較し良い一致を示していると思います。また、⊿Hがマイナスであることから、発熱反応であることが予測されます。

標準状態(1atm, 298.15K)のエントロピーを求めたい場合は、ゼロ点補正エネルギーの代わりに298.15Kのエンタルピー補正エネルギーを加えてから計算してください。温度条件の指定方法や、出力ファイルにおける熱力学的諸量の見方は過去の記事を参照してみてください。

アイソデスミック反応を利用する際の注意点は?

アイソデスミック反応は、化合物の生成熱を予測する際にも利用できます。つまり、はじめに反応の⊿Hを求めた後、既知化合物の生成熱を用いて計算することによって未知の化合物の生成熱を予測することができます。その際に用いる既知化合物の実験値は、精度の良い値を用いないと正確な推定値が得られないので注意が必要です。

また、生成熱などの物質の内部エネルギーは「状態量」なので生成する経路に依存せず、物質とその状態毎に一つの値をとります。しかし、活性化エネルギーはそうではないので、このテクニックは使用できません。生成熱でもアイソデスミックでないような反応には適用できないので注意が必要です。

CCCDBDで、アイソデスミック反応や熱化学計算に利用できるエンタルピーなどが検索できるので活用してください。
http://cccbdb.nist.gov/reactions.asp

おわりに

今回はアイソデスミック反応について、それを利用した反応エンタルピーの計算方法について紹介しました。アイソデスミック反応は、非常によく似た系を比較する時に誤差の相殺を最大に利用することができるので、系や反応をモデル化する際にとても便利です。実際に、実験室レベルやプロセスの現場でも反応熱による考察は非常に重要ですので、是非活用してみてください。

この記事で使用した計算ファイルを以下に置いておきます。
http://pc-chem-basics.blog.jp/Acetaldehyde(GAMESS-OutputFile).zip
http://pc-chem-basics.blog.jp/RxnEnthalpyCalc.xlsx

【関連記事】
熱力学的諸量をみてみよう
GAMESSで温度条件を指定する方法