量子化学計算(ab initio計算)では、とにかく計算結果を得るのに相当の時間を要します。もし、既存の計算データがあるのであればそれを利用したいものです。
今回紹介するPubChemQCというサイトは、量子化学計算で得られた構造最適化データが3,981,230分子収録されています (17’ 2/23日現在)。前回、構造最適化計算では初期構造が大切だと述べましたが、こういったデータベースの分子構造を利用すると計算コストの低減につながります。積極的に利用していきましょう。
1) どんなデータが利用できるの?
The PubChemQC Projectは理化学研究情報基盤センターが管理している国産のデータベースで、無料で利用できます。利用できるデータは、GAMESS(US)で計算した構造最適化データ(アウトプットファイル(.log))などです。
構造最適化のための計算概要は以下の通りです。
①PubChem Compoundから分子情報を取得
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②半経験的分子軌道法(PM3)で構造最適化
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③HF/STO-6Gで構造最適化後、B3LYP/6-31Gdで構造最適化
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④得られた構造に対しさらにTD-DFT/6-31+Gdで励起状態計算
※詳しい内容はこちらの文献を参照してください。
注意しなければならないのは、得られた構造最適化計算に対して振動数計算を行っていないので真の安定構造か確認が取れていないことと、当然、IR・ラマンスペクトルや熱力学諸量の計算データは含みません。しかしながら、構造最適化計算の結果だけでも利用価値は非常に高いです。
2) 利用方法は?
1) トップページにアクセスすると『Molecule Query』の検索窓に化合物のIUPAC名やCASなどを入力しsubmitを押すと目的のアウトプットファイルが入手できます。
2) ここではエタノールを検索してみましょう。Groundが基底状態のInputファイルとOutputファイル(.log)で、その下のexcitedが励起状態です。”GAMESS OUTPUT (ground): 000000702.b3lyp_6-31g(d).log.xz”をダウンロードしてみましょう。
3) .xzファイルを開けない場合は、Windowsユーザーは7-Zipというフリーソフトなどで解凍できます。MacユーザーはThe Unarchiverというフリーソフトなどで解凍できます。解凍すると、GAMESS(US)アウトプットファイル(.log)が出てきます。
4) これまで紹介してきたAvogadroやMacMolPltでも開くことができます(MoCalc2012では拡張子を.gamに変更する必要があります)。下の画像は、AvogadroでダウンロードしたファイルのHOMO(最高被占軌道)を表示させてみました。
もしも、Gaussianや他の量子化学計算ソフトで分子座標を利用したい場合はAvogadroやMacMolPltで読み込んだファイルをXYZファイル(拡張子.xyz)等、望みのファイル形式で一旦保存してそれを使用すると良いでしょう。
3) おわりに
今回は、PubChemQCという国産のデータベースを紹介しました。現在も頻繁に更新され収録分子数が今も増えているのが驚きです。計算化学のデータベースはその他にも幾つか存在します。今後も、量子化学計算に関するデータベースの紹介を行っていきます。
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