今回は、エタンを例に回転異性体の配座解析を行ってみましょう。方法は、以前紹介したGAMESSミニマムエネルギーパス計算を利用して回転障壁を計算します。一度の計算で、複数の異性体から安定な構造を取り出す事ができる便利なテクニックですので是非マスターしましょう。
ep00

エタンの配座異性体(回転異性体)について

例えば、エタンの炭素ー炭素結合は室温でぐるぐると自由回転しています。その際、異なる立体配座を生じる訳ですが、すべての立体配座で同じポテンシャルエネルギーを持つわけではありません。各置換基の空間配置の違いによって、立体的混み合いが異なるためエネルギー的に安定な配座とそうでない配座が生じます。
ep09
例えば、立体的混み合いが最も大きくなる「かさなり型(Eclipsed)」と、それとは逆に最も混み合いの少ない「ねじれ型(Staggered)」がそうです。

それでは、実際にかさなり型に比べてねじれ型がどの程度安定なのかをGAMESSで計算してみましょう。ここでは、実際に炭素-炭素結合を軸にして一方のCH3基を回転させることでコンフォメーションサーチしながら安定な構造と不安定な構造を探し出し、そのエネルギー差から回転障壁を算出してみましょう。

配座解析に必要な入力ファイルを作成してみよう

GAMESSでミニマムエネルギーパス計算をしてみよう」のテクニックをマスターしていれば簡単です。今回は炭素-炭素結合を軸にして一方のCH3基を回転させるために、各CH3基の水素原子で形成される二面角を変化させて計算します。
ep11
ここでは、MoCalc2012をGUIとして使用しFirefly(PC GAMESS)で計算します。MoCalc2012を使えば、計算結果をエネルギープロファイル図へと簡単に描画させることができるので便利です。
※) MoCalc2012の基本的な使い方は過去の記事を参照してください。

1) MoCalc2012のFirefly用設定画面でエタンの初期構造を読みこませたら、ツールバーのStart >Build/Edit Z-Matrixをクリックします。(初期構造は、MolViewなどを使ってMOLファイル(.mol)ファイルを作成してください。)
pao01
2) 新しいウインドウには、MOPACの内部座標形式(ZMTMPC)に関する設定画面が表示されます。MOPACの内部座標形式の見方がわからない方は、「MOPACを実行してみよう」の記事を参照してください。ここでは、3番目の水素と七番目の水素の二面角を変化させるのでOptのボタンを"S"に変更します。
ep01
3) ScanのStartは空欄で、Stopを150°でSteps(計算回数)を50回にしてみましょう。これで0°から150°までを50回、つまり3°毎に構造最適化する入力ファイルを作成します。最後に、右下のOKボタンをクリックすると「ファイル名.zmt」というファイルが作成されます。原子に付与されている番号がわからない場合は、Showボタンで分子モデルを表示させて確認しておきましょう。下図はJSmolで表示させた様子です。
ep02
※) 本当は180°まで行えば、すべてのエネルギープロファイル図が得れますが、GAMESSでは計算途中で分子座標を定義できなくなると(原子団が直線に並び、ねじれ角を定義できない場合など)、エラーで計算が止まってしまいます。座標系を変えたり、ダミー原子を配置することでこの問題を回避することができますが、今回はかさなり型とねじれ型間の変異が最低限わかればいいので、エラーの出ない150°までに設定しています。残りの30°分を計算したい場合は、出力されたファイルから最後の分子座標を抜き出して、残りを計算すればOKです。

4) 後は、設定画面で計算方法を指定しましょう。メイン画面でJob Typeを「Reaction Coordinate/Grid Calculation」に設定し、試しにHF/STO-3Gで計算してみましょう。
ep03
作成された入力ファイルの内容は以下の通りです。関連するキーワードは全て既出なので、分からない場合は以下の2つの記事を参照してください。また、Mac環境でMoCalc2012を利用できない場合も、以下の記事が参考になります。
ep08
部分構造最適化をしてみよう
GAMESSでミニマムエネルギーパス計算をしてみよう

エネルギープロファイル図を描画してみよう

MoCalc2012の場合は、計算終了後にCoordinateボタンをクリックしエネルギープロファイル図を描画させ、アニメーションをプレビューすることができます。後から、出力ファイルを読みこませてもOKです。
ep04
ep05
ep06
Outputファイルからは、「SURFACE SCAN」で検索すると見つかります。各点での全電子エネルギー(hartree単位)が出力されていますね。その下の「ENERGY DELTA MAP」の方は、最もエネルギーが低かった点からの相対値(hartree単位)が出力されています。
ep07
エネルギープロファイル図から、最もエネルギーが低い(安定な)配座が「ねじれ型」で、最もエネルギーが大きい(不安定な)配座が「かさなり型」であることが確認できると思います。

実際は、エネルギーの極大点と、極小点の構造を抜き出して再度構造最適化熱力学的諸量を求めて、その差から回転障壁を求めるべきです。しかし、ここでは簡易的に得られたエネルギーの最小値と最大値の差からおおよその値を見てみましょう。つまり、最もエネルギーが低い(安定な)「ねじれ型」と、エネルギーが大きい(不安定な)「かさなり型」では、エネルギー補正無しで2.87Kcal/molのエネルギー差(回転障壁)であることが計算で求まりました。
CCCBDBで実験値を調べると2.93Kcal/molとあるので、なかなかよい結果が得られていますね。

おわりに

これまで紹介した方法をマスターしていれば簡単でしたね。ここでは、最も配座解析が容易なエタンを例にしましたが、複数のコンフォメーションを有する化合物から安定な配座を見つけることができるこの方法は非常に便利です。力試しに下図のようなブタンの配座解析を行ってみるとよいでしょう。
ep10
さらに、「異性体比を計算で予測してみよう」の記事で紹介した方法を使えば、「ねじれ型」と「かさなり型」の存在比を求めることができます。興味がある方は、是非チャレンジしてみてください。

この記事で使用した計算ファイルを以下に置いておきます
http://pc-chem-basics.blog.jp/Ethane_RotationBarrier.out

【関連記事】
部分構造最適化をしてみよう
GAMESSでミニマムエネルギーパス計算をしてみよう
異性体比を計算で予測してみよう