分子軌道計算により得られる特定の分子軌道を用いると、反応を予測することができます。このような軌道はフロンティア軌道と呼ばれ、代表的なものがHOMO(最高被占軌道)、LUMO(最低空軌道)です。今回は、量子化学計算で得られた結果を基に、フロンティア軌道で反応を予測してみましょう。
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1) フロンティア軌道論とは?

簡単に言うと、フロンティア軌道と呼ばれる軌道の密度や位相によって、分子の反応性が支配されているという理論です。電子配置は軌道エネルギーの低い分子軌道から順に電子を2個ずつ詰めていきます(フントの規則)。電子に占有されている最もエネルギーの高い分子軌道をHOMO(最高被占軌道)、電子に占有されていない最もエネルギーの低い分子軌道をLUMO(最低空軌道)と呼び、これらをフロンティア軌道と呼びます。

この図をみてイメージを掴んでください。
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2) フロンティア軌道で何がわかるの?

例えば、求電子剤ではHOMOの最も確率密度の高い部分が反応点となり、求核剤ではLUMOの最も確率密度の高い部分が反応点であると予測できます。
フロンティア軌道理論は、『反応の初期段階で大きな相互作用をする部位で反応が起きやすい』という仮定に基づいています。反応の初期段階において、二つの相互作用系の間には以下の様な傾向があります。

■ HOMOとLUMO間のエネルギー差が小さいと反応性が高くなる
■ フロンティア軌道係数が大きい部分で反応性が高くなる
■ フロンティア軌道係数の大きい部分同士の相互作用が最も有効である

その他にも、結合性軌道と反結合性軌道から反応の方向性(どの結合が生成・開裂するか)を予測することができます。
 

3) HOMOを計算してみよう

それでは早速、分子軌道計算を行いGUI上でHOMOを表示させてみましょう。ここでは、芳香族求電子置換反応における求電子剤の配向性(位置選択性)を予測してみましょう。
計算はFirefly(PC GAMESS)を用いて、理論/基底関数はHF/6-31Gdで計算してみましょう。今回、計算する化合物はフェノールとナフタレンにしてみましょう。
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まずは、構造最適化計算を行い振動解析(振動数計算)で安定構造であることを確認してみましょう。今回はAvogadroMacMolPltを使って説明します。ここではフェノールを例に示します。Avogadro, MacMolPltはMac, Windows両方に対応していますが、ここではWindowsの操作画面で説明します。
 

1) AvogadroによるInputファイルの基本的な作成方法は以前の記事を参照してください。
Avogadroのインプットファイル作成画面で、$STATPTの行に『HSSEND=.TRUE.』を入れて構造最適化後に続けて振動数計算を行うように命令文を作成し(赤枠①)、Genarateボタン(赤枠②)を押してInputファイルを作成します。
ちなみに、フェノールの初期構造はMolViewで作成しAvogadroでinputファイルを作成しました。
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2) Firefly(PC GAMESS)の実行は、Windowsユーザーは以前紹介したFiCo、Macユーザーは付属のソフトで対応するコア数を指定して並列計算させると速く結果が求まります。計算が終了したらアウトプットファイル(.out)をMacMolPltに読み込ませ、ツールバーのSubwindow >Frequenciesで表示される振動数に虚数(マイナスの振動)が存在しないか確認し、安定構造であることを確認してください(Outputファイル中の振動数の見方はここを参照)。
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3)分子軌道の表示方法は以前の記事で紹介しましたがもう一度復習しましょう。MacMolPltのツールバーからSubwindow >Surfacesを選択するとサブウインドウが開くので、『3D Orbital』を選択します。3D Orbital 画面のSerect OrbでOccupationを選びます。25番目の軌道に2個のスピン電子数があり、26番目の軌道のスピン電子数が0個であることから25番目の軌道がHOMOであることがわかります(26番目がLUMO)。
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4) Contour Valueで表示させるフロンティア軌道の閾値を決めます。あまり大きくするともちろん表示されませんし、小さくしすぎるとどこのフロンティア軌道係数が大きいかわかりづらくなります。ここでは0.05に設定しましょう。でフロンティア軌道のメッシュ表示(Wire Frame)の細かさを指定します。これは単純に外観の好みですので綺麗に表示させたい場合は数値を高くしてみましょう。

5) 最後にupdateを押すとHOMOが表示されます。同様にナフタレンについて計算し、HOMOを表示させてみました。

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4) 反応位置を予測しよう

ここで求電子試薬が芳香環を攻撃する場合は、求電子試薬の空の軌道と芳香環の HOMO が相互作用すると考えられます。実際に、先程計算したフェノールのHOMOのフロンティア軌道密度はオルト, パラ選択性を予見しており、実験事実ともよく一致します。
フェノールの場合、有機電子論からも共鳴構造を描き電子密度が高い位置からオルト, パラ配向性であることを予測できますが、分子内の分極が少ないナフタレンの場合、有機電子論での配向性を予測することは困難です。一方、分子軌道計算で得られたナフタレンのフロンティア軌道密度(HOMO)はα位で最大となり、実際の求電子置換の反応位置と一致します。
このようにフェノール, ナフタレンで分子軌道計算を行った結果、見事に実験事実を予測できたことになります。

5) おわりに

今回は、フロンティア軌道であるHOMO(最高被占軌道)を求め、反応位置を予測する方法を述べました。置換基の立体障害等が選択性に影響する系では、フロンティア軌道のみの反応予測は困難になります。さらに活性化自由エネルギーを求めるなど、熱力学的・速度論的な予測が必要です。その場合、反応物、生成物、遷移構造それぞれの計算が必要になり、系によっては計算労力が負担になる場合があります。対象とする系と求められる予測のレベルを良く考慮してどちらの計算方法を採用するべきか決めることが重要です。

次回は、LUMOを計算で求めてSN2反応(求核置換反応)の予測をしてみましょう。また、GAMESSのアウトプットファイル中の軌道係数の見方や、結合性軌道・反結合性軌道についても説明します。

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